多 くの研究者が日本列島に麻が渡来する時期を、弥生時代以降稲とともに移入したと古くから考えられてきました。そのため縄文遺跡の遺物のなかに麻の痕跡は見逃されてきましたが、近年の再発見で縄文時代の初期から漆•瓢箪と一緒に麻も発見されて、12,000年前まで遡ることが明らかになりました。「アサ」と記載されてきた大麻と苧麻と赤苧の区別も、大賀一郎から研究を引継いだ布目順郎によって、繊維の側面と断面の構造の違いから様々な種類の繊維を区別できるようになりました。
麻は肥沃な土地においてよく生育しますが、痩せた土地でも育つことができることから野生化する場合も多く、繊維として利用するには栽培•管理に手間のかかる植物です。岡山大学資源植物科学研究所・笠原安夫はロシアの植物•遺伝学者ニコライ•ヴァヴィロフの栽培植物の起源の研究より「麻が人間の移動していく際に、その随伴者となる」という特性から日本の麻が旧石器人の随伴植物として移入し、その後栽培、または逸出した可能性を示唆しています。
大麻の原産地は中央アジア•西ヒマラヤといわれ、繊維は衣服•縄に用いられる他、種実は食用にされました。日本には縄文前期から渡来し、福井県•鳥浜貝塚からは大麻製編物と種子が出土しています。その後、縄文遺跡後期~弥生時代にかけては、千葉県•三重県•兵庫県•佐賀県•宮城県•青森県•熊本県•静岡県など各地から出土され、多種多様な生活用具として用いられていたことがわかっています。
楮の原産地は中国中南部•東南アジアなどといわれ、日本には弥生時代の遺跡から大麻より少ないですが出土します。出土品に木綿(ゆう)の一部が残されている場合、古墳から出土する鏡の鈕孔に木綿が発見されます。鏡に木綿が結ばれていたことを示すもので、大麻が結ばれた事例は1件ということです。事例の最古は弥生後期後半の3世紀とされる福岡県鞍手郡若宮町の木棺墓の鏡に、また、正倉院所蔵の鏡13面にも木綿が結ばれていました。鏡の紐に木綿を用いる習慣は3世紀から奈良時代まで存続していたと、布目順郎が『古代学研究』97号1982年に記載しています。
苧麻の原産地は東南アジアといわれ、日本では古墳時代になって苧麻製の織物が発見されるようになります。「弥生時代から古墳時代前期の遺跡で出土される植物繊維製品の殆どが大麻製で、木綿や樹皮を用いたものは極僅か‥」と布目順郎がいわれています。その後苧麻は大麻に変わり使用されるようになりますが、大麻と苧麻の使用比率は弥生時代には8対2であったものが、奈良時代には2対8に逆転していることから、次第に日常の衣類に苧麻が使用されるようになったようです。
•✦•
平成二年十一月「大嘗祭」の麁妙を造るため阿波忌部の裔孫三木信夫氏によって大麻が栽培された「斎麻畑」