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紅花 紅藍花

物書『本草綱目』(1596)李時珍に「べにばな」はどう説明されているのでしょうか。漢名は「紅藍花」『釈名』では「紅花」「黄藍」その花は紅色、葉は藍に似ているので名に藍がある。と書かれています。薬物書『経史証類備急本草』(1061年)唐慎微では「紅藍花」産業技術書『天工開物』(1637年)宋應星には「紅花」紅花餅の造方法も記されています。

 

日本での呉藍→クレノアイ→紅藍→紅花と名称の移変りを説明する文献は『本草和名』『和名類聚抄』『和漢三才図絵』を引用して論ずる場合が多く見られます

『本草和名』は醍醐天皇に仕えた侍医•深根輔仁が延喜年間(901–923)に編纂した薬物辞典です。長く不明になっていた上下2巻全18編の写本が発見され、寛政3年(1796)に校訂を行って刊行されました。下巻の第20巻有名無用193種に「紅藍花」久礼乃阿為と記されています。上巻の第6巻-第11巻草上中下の中に藍実•茜根•紫草の記載があり、第19、20巻は後年の付け加えかも知れません。

『和名類聚抄』は平安時代の承平年間(931–938)に源順が編纂した辞書です。私が確認できたものは那波道円校注の元和3年(1617)刊の元和古活字本です。第184染色具の中に「紅藍」はあり『辨色立成』では久礼乃阿井「呉藍」と同じ。と記され「紅花」俗用之。とも記されています。辨色立成は現在存在していなくて、和名類聚抄の中にしか書物の名は見つけられないようです。中国の書といわれていたこともあったようですが、中国でも文献は見つかっていません。

『和漢三才図絵』は正徳2年(1712)に寺島良安によって編纂された類書(百科事典)です。「紅花」紅藍花 黄藍 俗云 久礼奈伊 呉藍クレノアイ、「藍」の解説と同じく中国の『本草綱目』を参考に挿絵を入れて説明をしていますが、ここでは『釈名』の説明は記されていません。文政7年(1824)の秋田屋発刊で確認していますが薬効としての説明より、国内での栽培産地や染色の仕方などの記載がされ、口紅のことも記されています。

 

本草綱目』釈名で記されていた葉が藍に似ているというのを推測できる文献は、『経史証類備急本草』で「呉藍」と「紅藍花」の図がそれぞれ確認できます。簡素な図なのではっきりと断言できませんが、呉藍の葉は茎が長く蒿(よもぎ)に似ていると書かれているので正確な記述のように思えます。

 

 

「従来わが邦で用いられている漢名には、その適用を誤っているものがすこぶる多い」植物分類学者•牧野富太郎が随筆の中で語られているのを考慮しながら、遠い昔の標野を思うのです。