植 物は緑色の種類も豊富で、その濃淡様々な色を表した多くの染色名があります。染色方法は藍の下染めに刈安や黄檗で染めます。藍の濃度と、黄色に染まる染料の組み合わせによって様々な緑色が染まります。『枕草子』のなかで「狩衣は香染の薄き、白き、ふくさ、赤色、松の葉色」と記され、『宇津保物語』には「青色の松葉うへのきぬの柳がさね」と記されています。平安時代から松の葉のような暗い黄緑色•萌黄色を「松の葉色」と呼ばれていました。松に因んだ重色「松重」は、表萌黄•裏紫、表青•裏紫、などです。江戸時代後期の染色の解説書『手鑑模様節用』の新古染色考説附色譜には「松葉色。古名とくさいろ、寛政年中あゐびろうどの名ありて、一時のりうこうたり」と記され、色譜には暗いオリーブ色が示されています。松葉色の方が木賊色より黄味が強いようですが、色調は似ているようです。
木賊(とくさ)色は、多年生常緑シダ類の木賊の茎ような色彩です。茎は硬く中空で節があり、表面はザラザラしていて「天然のヤスリ」として木工品や爪などを磨いたりするのに用いられ、砥草色との表記もあります。和風趣味が感じられることから、日本庭園や観葉植物にも親しまれてきた植物です。『宇治拾遺物語』(建保–承久年間1213–22)には「とくさの狩衣に青袴きたるが」とあり『増鏡』にも狩衣、『義経記』には水干の色に木賊色は見られます。この色名は平安文学には見られませんが鎌倉時代には使われ、くすんだ青味の緑色は武家や年配者の衣装として落着いた渋い色が好まれ、江戸時代中期には流行色になりました。『手鑑模様節用』での色譜には「とくさ色。一名青茶」と記され、染色は藍と刈安によって染められた色、重色は表黒青•裏白となっています。
「木賊色の狩衣の下に、萌黄縅の腹巻を着て、弦袋をつけたる太刀わきばさみ、殿上の小庭にかしこまつてぞ待ひける。」『平家物語』巻第一。木賊色、松葉色、萌黄と染色材料が同じ染分けの色の妙と、色の描写の写実性に武者の姿が彷彿されます。
参考:「日本の伝統色」長崎盛輝 京都書院