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藍でつくられた色ー⑤ 瓶覗き

の単一染で一番薄い色を「瓶覗」(かめのぞき)と呼びます。「覗色」とも呼ばれ染法から由来しているともいわれます。藍瓶の染液が使用され続け、最後は微かな色しか染まらなくなった液に一寸浸す意味です。もう一つの解釈として、水の張られた瓶に映った空の色を覗き見た色のようだという説もあります。近年は名称の響きや希少な出来事ように語られた藍の染め方に、モノ(藍)を大切にする愛おしさも相俟って知名度もあります。江戸後期には名称が見られますので、極薄い藍の色が生活の中で判断•記憶され、表現豊かな名称が付けられていることに藍の文化を感じます。江戸町民が水色や浅葱色との僅かな色の差異を名付けて共有し、楽しんでいた心意気がうれしいです。

 

一番薄い色が染め初めの色でなく、最後の色なのも心ひかれることなのかも知れません。藍を管理していて醗酵の具合や、染め続けたことによって疲れた藍還元菌を回復するために灰汁や石灰と麸を入れます。藍瓶の中に入っている堅木から取った灰汁は、藍の醗酵に欠かせないミネラル成分が入っています。その灰汁の成分には色を抜く性質も内在しています。化学建てに使われる苛性ソーダ(水酸化ナトリウム)もハイドロサルファイト(亜ジチオン酸ナトリウム)も還元剤と漂白剤の性質を持っています。藍菌の壮年期は絶妙ななバランスで増殖する環境が整えば、毎日染めていても菌の活動で直ぐ染まる状態になりますが、少しづつ回復することが鈍くなります。染まった布、糸から灰汁(木•藍の両方)の抜けも悪くなり、一層染上がりに注意が必要になります。

 

数ヶ月以上使い続け、液の中に藍分が無くなる時が近づくと雑菌も多くなります。様々な過程を経た時期に染めるわけですから、やはり染めていて力尽きる前の藍菌が、最後まで色を出してくれている様子を毎回愛おしく思うのです。

 

 

参考:「日本の伝統色」長崎盛輝 京都書院